時間が経ち、それがただの夜のオカズには少し色褪せた頃になって、僕は自分の中のある感情に気が付いた。

僕はいつの間にか、ユキちゃんを心の隅に、いつも住まわせていたのに気が付いたのだ。

それを自覚した時、滅入ってしまった。横恋慕、などというにはあまりにプラトニックであり、だからこそよけいにずいぶんと下品に思えた。それを自覚した直後に、「死ね」事件があり、あの時、画面にアップになったユキちゃんに、僕は瞬間胸をときめかしていたのだと気付かされた。

テレビの画面に映るユキちゃんは、その時だけは誰のモノでもなく、きっと本人が聞くと嫌な顔するだろうが、AV女優と並列だった。誰かのモノ、きっと誰かのモノ、という事は頭の隅にはあっても、今は僕だけの恋人、と錯覚出来る瞬間。その千載一遇の瞬間があの一瞬であり、それは「死ね」の一言で、何か乗り越えられないひたすら高い壁に変わったのだった。

その時その瞬間、ユキちゃんは一号の恋人で、という事を胸に刻んで、僕はホッとした。だが途端に切なくなって、どうしようもなくなって、それ以来ずっと、僕はからっ風のような乾いた風に晒されている毎日が続いている。

それは僕の足下から、額にかかる前髪を跳ね上げるように、いつも吹き続けていた。そのせいで僕はいつも、かさかさに乾いている。今となっては、潤す水も毒になるかもしれない。それぐらいになんだか味気ない、毎日を送っていた。

僕はそういう事を自分ではどうしようもないぐらいに自覚しているのに、他人に対しては薄い透明なベールを被って隠すのは得意だ。思いを処理するのが得意なわけではないが、隠すのは手慣れている。

だから、一号にはきっと、悟られていないだろう。もちろん、ユキちゃんには、更に疎遠になってしまっている。

他人に隠しながら、自分の中で上手く処理しようとしている。だから僕は、変にまた異性にセンシティブになっている所がある。本気で、新しい彼女を、という意欲というか、希望を目的に変えている。

そうでないと、最近はユキちゃんの艶めかしい姿に加えて、一号が僕の妄想の中に顔を出すようになってしまった。ユキちゃんへの横恋慕を押し止めようとして、強く一号を意識しすぎたのかもしれない。今はもっぱら、僕とユキちゃんではなく、一号に抱かれるユキちゃん、にオカズは移行していた。

歪んでいる。

男の僕は、性欲に関しては探求者である事に、かなりの許容範囲を持っている事を自覚しているが、さすがに最近の自分は行き過ぎているかもしれないと思いつつ、自然な欲求には逆らえずにいる。

何を持ってノーマルとするか解らない時代に生きていても、普通に希求する意識は常にある。それがほとんどの場合、以前の自分、である事が多くても、僕らはその後戻りを熱望する所がある。

ただ、僕はどこまで戻るべきなんだろうか?それともこのまま叶うはずのない妄想だけを抱え続けて、先へ先へと突き進んでいくしかないのか。せめて、ユキちゃんとは別人が僕の恋人、という奇跡の測道は現れないのだろうか、と僕はぼんやり考えていた。

 

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