ところで、これから東京に帰って、何をしたらみんな驚くだろうか?笑われたくはないけれど、驚かせたい。

やっぱり、と思う。

私は肩に手を置いた。それを少し浮かせると、手の甲にさらさらの髪が触れる。その感触をなぞるように、手を横にすべらせる。ふわりと持ち上がった髪の束は、手が動くにつれて、ハラハラと零れてゆく。

毛先まで届いて、パサリと髪は纏めて落ちた。柔らかく、一瞬浮かんで、整列するように私の脇の辺りに流れていった。

ずいぶんと、伸びたな、と思う。トレードマーク、というほど綺麗でも、びっくりするほどの長さでもない。でも、これが私の一部でもある。身体の一部だ。

だから髪を撫でるという仕草は、自分の中で、少しだけ官能的な行為でもある。人前で、時々髪を弄って見せるのは、それはとても背徳的な、卑猥な遊びなのだ。

それを切るなら、明日だな、と思う。

明日しかない。

奥さんに頼んで、美容院を紹介してもらうか、やっぱり外に出られなければ、奥さん自身に切ってもらおう。それとも、主に、裁ちばさみでザクザクとか、それを写メして、ブログに載せるとか。

くだらないことだけど、それで、気が済むてことも、現実には大いにあるんだ。

もう私の中で、その決断は実行可能のカウントダウンが始まっていた。

これでもう、この髪ともサヨナラか、なんて少し感傷的な台詞を思い浮かべる。だったら、この髪の香り、柔らかさ、それを今は感じられるだけ感じよう。

私は髪を後ろで束ねると、それをマフラーのように首に回して、口の辺りにかぶるように巻いた。そして両手でその髪の束を抱えて、そのままソファに転がった。愛しくてたまらないモノを、思いっきり慈しむように、髪の毛を抱きしめる。

目を閉じる。髪の香りが漂う。

明日にはサヨナラだ。

くだらないサヨナラを、私は愉しむんだぞ。

 

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